2026年8月26日、早明浦ダムを見に行ってきました。
貯水率が30%を切ったというニュースを見たからです。四国に住んでいると、このダムの数字は天気予報の一部みたいなもので、「またか」と思いながらも、今回はさすがに見ておこうと思いました。
行ってみたら、湖の底から建物が出ていました。
旧大川村役場です。名前だけは知っていましたが、実物を見たのは初めてでした。そして帰ってから調べて、この建物が建てられた経緯を知って、正直なところ、少し言葉に詰まりました。
貯水率30%の早明浦ダム

早明浦ダムは、高知県の土佐町と本山町にまたがる吉野川水系のダムです。1975年(昭和50年)に管理が始まりました。堤の高さは106メートル、総貯水容量は3億1,600万立方メートル。
「四国の水がめ」と呼ばれますが、これは比喩ではありません。徳島用水・香川用水・愛媛分水・高知分水として、四国4県すべてに水を送っています。ここが減ると、4県が同時に困る。だから香川県では、天気予報と一緒に早明浦ダムの貯水率が流れます。

満水のときにどこまで水があったかは、岸を見れば分かります。水に浸かっていた部分は草木が生えず、色が違うからです。この露出した帯の高さが、そのまま足りていない量です。

よく見ると、斜面に横縞が入っています。水位が下がるたびに、そこがしばらく水際になって跡が残る。地層のように見えますが、これは今年の夏に刻まれたものです。
ついでに──上から見ると、このダム湖は龍の形をしています
くねった谷にそのまま水が入っているので、上空から見ると細長い龍のような形に見えます。

右のふくらんだところがダムで、そこから上流へ向かって胴体がうねり、尾が西へ伸びていく。谷の形がそのまま湖の形になるので、こういう姿になります。
皮肉なもので、龍の輪郭がはっきりしてくるのは、水が足りていないときです。
湖底から、役場が現れていました

これです。
旧大川村役場。ふだんは水の中にあります。水位が下がると、まず屋根がうっすら見えて、さらに下がると上の階から順に姿を現していく。四国では「渇水の象徴」として、渇水のたびにニュースに映る建物です。
見た瞬間は、正直「水が引くとこんなものが出てくるのか」という好奇心のほうが勝っていました。コンクリートの躯体が思ったよりしっかり残っていて、外階段の形もはっきり分かる。建築の仕事をしているので、つい造りのほうに目が行きました。
なぜ、沈むと分かっている場所に役場を建てたのか
帰ってから調べて、印象が変わりました。
この役場は、ダムの建設が決まったあとに、わざわざ水没予定地に建てられたものだったからです。
大川村では、ダム建設に対して官民をあげた反対運動が起きていました。村民大会が開かれ、デモが行われ、村内に立てられた「ダム建設反対」の立て札は600本にのぼったといいます。
その反対の意思を形にするために、沈むと分かっている場所に、新しい役場を建てた。
10年以上の交渉の末に抵抗は少しずつ弱まり、村の中心部はダムの底に沈みました。人口は最盛期の4,000人以上から、1985年には750人まで減り、2010年には離島を除いて日本でいちばん人口の少ない村になっています。
現役だった頃の役場の写真は、大川村の公式サイトで見ることができます。
→ 水没した大川村旧役場庁舎(でぃぐ!大川村)

引いて見ると、その孤立ぶりがよく分かります。
あの建物は、ただの水没した廃墟ではありませんでした。
抗議のために建てられたものが、水が減るたびに顔を出している。四国4県に水を送るために沈められた村が、水が足りなくなったときだけ姿を見せる。
そう思って写真を見返すと、同じ建物がまったく違うものに見えてきます。
このあと、どうなったか
私が見に行った8月26日のあとも、まとまった雨は降りませんでした。
| 日付 | 貯水率 |
|---|---|
| 8月26日(撮影した日) | 30%を切る |
| 9月3日 | 10%を割る |
| 9月4日 | 8.8% |
| 9月8日ごろ | 一時4%台。旧役場は1階部分まで露出 |
| 9月16日 午後5時 | 12.0% |
香川用水は8月28日から60%の取水削減が続き、18年ぶりの第4次取水制限も視野に入りました。貯水率がゼロになった場合に備えて、発電用に確保している水を水道用に回す「緊急補給」の準備も進められています。
最新の数字はこちらで確認できます。
→ 早明浦ダム貯水状況(水資源機構 吉野川局)
私が見た30%は、まだマシなほうだったということになります。
建築の仕事をしている立場から──断水は「家の中」の問題になります
ここからは住宅の話です。
取水制限が進むと、最終的には各家庭の蛇口に来ます。給水制限、時間断水、そして断水。仕事柄、断水したあとの家で何が起きるかを見てきたので、書いておきます。
断水は「水が出ない」だけの問題ではありません。トイレが流せなくなるのが、いちばんこたえます。
まず、家の中にある水を把握しておく
意外と知られていませんが、家にはすでに水が貯まっています。
エコキュートの貯湯タンク
これがいちばん大きい。容量は370リットルや460リットルが一般的です。タンクの下部に非常用の取水栓が付いていて、断水時にここから水を取り出せます。
ポリタンク20個分くらいの水が、すでに家にあるということです。ご存じない方が本当に多い。
取り出す手順は、おおまかにこうです。
- 給水専用止水栓(給水元栓)を閉める
- 逃し弁のレバーを上げる
- タンク下部の非常用取水栓を開ける
- バケツやポリタンクに受ける
この2番目が肝心です。
タンクは密閉されているので、逃し弁を開けて空気を入れてやらないと、栓をひねっても水はちょろちょろとしか出てきません。ペットボトルを逆さにしても中身がなかなか出ないのと、同じ理屈です。
気をつけることも書いておきます。
- 最初に熱いお湯が出ることがあります。タンクの上のほうは高温のままなので、機種によっては熱湯が出ます。やけどに注意してください
- あくまで生活用水です。飲用にはしないでください
- 取水栓はふだん使わないので、固着していることがあります。断水してから初めて回そうとしても、まず回りません
- 停電していても取り出せます。電気を使わない機械的な操作だからです。台風で停電と断水が重なったときにも使えます
手順や部品の名前は機種によって違います。今のうちに取扱説明書を出して、給水元栓・逃し弁・非常用取水栓の3つがどこにあるかだけ確認しておいてください。それだけで、いざというときの動きが変わります。
電気温水器・貯湯式のガス給湯器
同じ考え方です。貯湯式なら、中に水があります。
トイレのロータンク
1回分の水が入っています。断水した直後、まだ流していなければ、これが1回分残っています。
風呂の残り湯
有名ですが、断水してから溜めようとしても遅いです。「そろそろ危ないかも」と思った時点で抜かずに残しておくのが正解です。
マンションは、給水方式で断水時の挙動が変わります
集合住宅は、建物の給水方式によって事情が違います。
| 給水方式 | 断水したとき |
|---|---|
| 受水槽方式(一度タンクに貯める) | タンクに残っている分はしばらく出る |
| 直結給水方式(本管から直接) | ほぼ同時に出なくなる |
近年の建物は直結増圧が増えていて、こちらは本管が止まるとすぐ止まります。受水槽や高置水槽がある建物は、少し猶予があります。
自分の建物がどちらか、管理会社に聞いておくといいです。断水してから調べても手遅れです。
なお受水槽方式でも、ポンプは電気で動いています。停電が重なると出なくなります。渇水に限らず、台風のときも同じです。
備えておくもの
渇水はある日いきなり断水になるのではなく、段階的に進みます。「まだ大丈夫」と思っている今が、いちばん買いやすいタイミングです。
優先順に挙げるとこうなります。
- 非常用トイレ(凝固剤と処理袋のセット)。断水でいちばん困るのがここです
- ウォータータンク・ポリタンク。折りたたみ式でコックが付いたものが使いやすい
- 風呂水ポンプ。残り湯をトイレやバケツに移すのに要ります
- 給水袋。給水車に並ぶとき、手提げよりリュック型のほうが運べます
この記事のまとめ
- 早明浦ダムは四国4県に水を送るダム。ここが減ると4県が同時に困る
- 渇水のたびに現れる旧大川村役場は、ダム建設への反対の意思として、沈むと分かっている場所にあえて建てられたもの
- 村の人口は最盛期4,000人超から、いまは離島を除いて日本最少
- 断水で本当に困るのはトイレ
- エコキュートの貯湯タンクには370〜460リットルの生活用水がある。逃し弁を開けないと出ないことと、取水栓の場所を今のうちに確認しておく
- マンションは給水方式で断水時の挙動が変わる。管理会社に確認を
雨が降ってくれるのが一番ですが、こればかりはどうにもなりません。せめて家の側でできる準備だけはしておこうと思います。
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