「サウナ、行ったことありますか?」と聞かれたら、私はずっと「ありますよ」と答えていました。でもそれは旅館やホテルの大浴場の隅にある、あの小さな部屋のこと。今回はじめてサウナ専門店というものに行ってきて、まったくの別物だと思い知らされました。高知市のSAUNA グリンピアでの体験と、建築の仕事をしている立場から考えた「住宅にサウナはアリなのか?」という話をまとめます。
廃工場がまるごとサウナになっていた
高知市南川添にある「SAUNA グリンピア」。廃工場をリニューアルしたサウナ専門店だそうです。看板を見て「ここで合ってるのかな」と少し不安になりましたが、中に入って納得しました。

建物に入ってまず驚いたのが、この広さです。天井が高く、柱の間隔も広い。工場の建物だからこそ取れる空間で、これを一般の店舗でつくろうとしたら大変な工事になります。

💡 元の建物の骨組みをそのまま活かして、内側に木で仕上げを重ねていく造り方です。梁も柱も隠さず見せているので、天井の高さがそのまま気持ちよさになっています。
旅館のサウナと、何がそんなに違うのか
正直に言うと、行く前は「サウナはサウナだろう」と思っていました。実際に体験してみて、違いを整理するとこうなります。
| 項目 | 旅館・ホテルのサウナ | サウナ専門店 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 大浴場の「おまけ」 | サウナが主役。浴槽がない |
| 服装 | 裸・男女別 | 水着着用・男女共用 |
| 熱源・意匠 | 電気ヒーターがむき出し | 電気ヒーター。薪ストーブ風に造り込んである |
| ロウリュ | ほぼできない | 石に水をかけて蒸気を出せる |
| 水風呂 | ない、または狭い | 広くて深い。専用設計 |
| 休憩場所 | 脱衣所の椅子くらい | 「ととのいスペース」が別にある |
🔑 一番の違いは、「サウナ → 水風呂 → 休憩」の3つがワンセットとして設計されていることでした。旅館のサウナは、この3つ目がほぼ存在しません。だから今まで、サウナの本当のところを知らないまま「知っているつもり」でいたわけです。
① 水着で入る、男女共用というスタイル
これが一番の驚きでした。水着を着て、男女一緒に入る。裸で入る日本の風呂文化に慣れていると最初は戸惑いますが、入ってしまえばこれが実に合理的です。
夫婦や友人同士で一緒に過ごせますし、水着なので変に気を遣うこともない。ととのいスペースで並んで休憩していても自然です。「風呂は男女別」という思い込みが、けっこう根深かったんだなと気づかされました。
② 薪ストーブに見えて、実は電気だった

この写真を見て「薪ストーブだ」と思われた方も多いのではないでしょうか。私も最初はそう思いました。ところが実際はすべて電気ヒーターで、足元で燃えているように見える薪は演出なのだそうです。
これを知ったとき、建築の仕事をしている人間として「よく考えられているな」と唸りました。
🔥 本物の薪ストーブを屋内で焚くと、話が一気に大きくなります
煙突の設置、周囲の壁や床の防火措置、一酸化炭素の管理、灰の始末、そして毎日の火の番。
不特定多数のお客さんが出入りする施設で、これを毎日安全に回し続けるのは相当な負担です。万が一のリスクも背負うことになります。
「薪の見た目」だけを残して、熱源は安全な電気にする。雰囲気は損なわずに、危険と手間だけをきれいに落としている。設計としては極めて真っ当な判断だと思います。
そして正直なところ、演出だと分かっていても居心地は良いのです。足元でオレンジ色の光が揺れているだけで、体感がずいぶん変わります。人間というのは、けっこう単純にできているものですね。
ベンチは3段。上に行くほど当然熱くなります。旅館のサウナだと2段が精一杯ですが、天井が高いぶん3段取れていて、その日の体調で座る高さを選べるのがありがたい。

💡 熱した石に水をかけて蒸気を出すのを「ロウリュ」といいます。一気に体感温度が上がって、汗の出方が変わります。旅館のサウナにはまずない設備です。
③ 水風呂が「本気」だった

正直、これが一番の衝撃でした。旅館の水風呂といえば、あっても洗い場の隅にある小さな浴槽くらいです。ここはゆったり寝られる広さと深さがあります。
建築の目で見ると、これは完全に専用設計です。躯体をコンクリートで立ち上げて、内側をモザイクタイルで仕上げてある。給水も配管がむき出しで通してあって、常に水が入れ替わるようになっていました。時計が壁に掛かっているのも、後から付けたのではなく最初から想定されている配置です。
⚠️ 心臓に持病のある方、血圧の高い方は、水風呂の急な冷えが負担になることがあります。心配な場合はかかりつけ医に相談してから利用してください。
④ 「ととのいスペース」という発想

これが旅館のサウナには決定的に無いものでした。サウナと水風呂の後に、ただ横になって休むためだけの空間が、こんなに広く取ってある。
迷彩ネットで細かく仕切ってあるので、広いのに他人の視線が気になりません。扇風機が要所に置かれていて、風が当たる位置も計算されている。木を波形に削り出した寝椅子まであって、これが背中にぴたりと合います。

正面のシャッターを開け放って外気を入れているので、屋内なのに外にいるような感覚になります。「屋内型外気浴スペース」という言葉を初めて知りましたが、なるほどうまいことを考えるものです。

🌿 サウナで熱くなって、水風呂で冷やして、あとは何もせず横になる。それだけのことなのに、頭の中が静かになっていくのがわかりました。「ととのう」という言葉を、正直これまで大げさだと思っていましたが、これは確かに何か起きています。
実は、住宅にもサウナは付けられます
ここからは建築の仕事をしている立場からの話です。
「サウナって特別な設備でしょう」と思われがちですが、住宅に付けること自体は、そこまで特別なことではありません。近年は家庭用の製品がずいぶん増えました。
そしてここで効いてくるのが、さきほどの「見た目は薪、中身は電気」という話です。プロが運営する専門店ですら、あえて電気を選んでいる。ということは、住宅で考えるなら電気一択ということでもあります。煙突も要らず、火の始末も不要。スイッチひとつで済むわけですから、むしろ家庭向きです。
| タイプ | 設置場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 屋内設置型 (電気ヒーター式) | 浴室・脱衣室 納戸・使わない部屋 | 1〜2人用のコンパクトな製品が主流。既存の部屋を改装して収める形が多い |
| 屋外設置型 (バレルサウナ・小屋型) | 庭・駐車場の一角 | 建物本体をいじらずに済む。屋外なら薪ストーブ式も選択肢に入る |
| テントサウナ | 庭・キャンプ | いちばん手軽。使わないときは畳んで収納できる |
ただし、確認すべきことが5つあります
カタログを見て「置くだけ」と思って進めると、後から困ることがあります。仕事柄よく相談を受ける内容を挙げておきます。
- ① 電源(これが一番のハードル)
家庭用でも200V専用の製品が多く、分電盤から専用回路を引く電気工事が必要になります。分電盤に空きがなければ、そこから手を入れることになります。
→ 電気工事は有資格者の施工が必須です - ② 床の補強
サウナストーンを積む製品は、本体と石で相当な重さになります。木造の2階に置く場合は、下地の補強を検討してください。「思ったより重い」が後から効いてきます。 - ③ 換気
サウナには給気と排気が要ります。密閉された部屋にただ置くだけでは、性能が出ないうえに危険です。 - ④ 防湿と断熱
高温多湿の空気が壁の中に入ると、内部結露から下地を傷めます。内側に防湿層を確実に取ることが肝心です。ここを軽く見た工事は、数年後に必ず出てきます。 - ⑤ 屋外に建てるなら建築確認
庭にサウナ小屋を建てる場合、建物の規模や地域によっては建築確認申請が必要になります。特に防火地域・準防火地域では小さなものでも対象になります。
→ 事前に所轄の行政庁や施工店に確認してください
⚠️ 特に④の防湿は、完成後には見えなくなる部分です。安く仕上げようとしてここを省くと、数年後に壁を壊す工事になりかねません。見えないところこそ、きちんとやってくれる業者を選んでください。
サウナがあれば、湯船はいらない?
グリンピアには浴槽がありません。サウナと水風呂とシャワーだけ。それで何も困りませんでした。
帰り道でずっと考えていたのは、これです。
💭 家に湯船って、本当に必要なんだろうか?
浴槽は、住宅の中でもかなり場所を取る設備です。掃除の手間もかかる。それなのに、実際には毎日シャワーだけで済ませている家庭も少なくありません。
もし「シャワー + サウナ」という組み合わせにすれば、浴室はもっと小さくできて、その分を他の部屋に回せます。
LIXIL「bathtope(バストープ)」という答え
とはいえ「たまには湯船に浸かりたい」という日もあります。両方は無理なのか——と思っていたら、すでにメーカーが答えを出していました。
LIXILの 「bathtope(バストープ)」。布製の、たためる浴槽を備えた浴室です。2024年11月に発売されました。
🛁 普段はシャワールーム、つかりたい日だけ浴槽になる
浴槽が布製で取り外せるのが最大の特徴です。
普段は畳んでおけば、浴室まるごとを広いシャワールームとして使えます。ゆっくりつかりたい日だけ広げてお湯を張る。
しかも1216(1200×1600mm)のようなコンパクトな浴室でも、長手方向いっぱいに浴槽が取れるので、既製の浴槽より足を伸ばせるそうです。
これを知ったとき、正直「やられたな」と思いました。
私たち業界の人間は、長いこと「浴槽は据え付けるもの」という前提で仕事をしてきました。浴槽の寸法を決めて、そこに合わせて浴室を組み立てる。順番はいつもそうでした。
バストープはその前提そのものを外しています。家具でいえばソファベッドのような発想で、使うときだけ出す。同じ面積を、時間帯や気分で二通りに使い分けるわけです。狭い日本の住宅事情には、これ以上ないくらい合っている考え方だと思います。
🔑 サウナと組み合わせると、こういう新しいバスシーンが見えてきます。
| 場面 | 使うもの |
|---|---|
| 毎日の入浴 | シャワー 浴槽を畳んで広々と |
| 温まりたい・疲れを取りたい | サウナ |
| ゆっくりつかりたい日 | バストープを広げる |
「浴槽を捨てる」のではなく、「必要なときだけ出す」。これなら我慢するところがありません。
💡 上位グレードも追加されており、価格はモデルによって幅があります。実物はLIXILのショールームで確認できるので、興味があれば一度見てみるのが確実です。
ただし、建築屋としての本音を言うと
ここは正直に書いておきます。バストープのような選択肢がある一方で、浴槽を完全に無くしてシャワーだけにするのは、かなりリスクがあります。
- 売却・賃貸のときに不利になります
日本の住宅市場では「浴槽がない家」はかなり特殊です。ご自身が住み続けるなら問題ありませんが、将来手放す可能性があるなら慎重に考えてください。 - 家族の意見が割れやすい
湯船に浸かりたい人と、シャワーで十分な人。ここが分かれると後々もめます。ご家族全員の合意は必ず取ってください。 - 小さなお子さんがいる家庭には向きません
乳幼児の沐浴や、子どもと一緒に入る時間は、湯船があってこそのものです。 - 後から浴槽を戻すのは大工事
浴室は防水と排水がすべてです。「やっぱり浴槽が欲しい」となったときの工事費は、最初から付けておくより確実に高くつきます。
——と、ここまで書いて気づきました。これらのリスクは、すべてバストープが解決してしまっています。
浴槽は「ある」のだから売却で不利になりません。つかりたい家族も困りません。小さなお子さんがいれば広げればいい。後から戻す工事も不要です。捨てずに、しまっておけるからです。
🔑 私の結論はこうです。
「浴槽を無くしてサウナにする」のではなく、「浴槽をたたんで、空いた場所と時間をサウナに回す」。
毎日はシャワーとサウナでさっぱりと。つかりたい日は浴槽を広げてゆっくりと。同じ面積で、その日の気分に合わせて使い分ける。これが、これからのバスルームの形なのだと思います。
この記事のまとめ
- 旅館のサウナと専門店のサウナはまったくの別物。特に「ととのいスペース」の有無が決定的
- 水着着用・男女共用は、慣れるとむしろ合理的
- 薪ストーブに見えたストーブは実は電気。安全性を取りながら雰囲気を出す、賢い設計だった
- 住宅にサウナを設置すること自体は難しくない。ただし電源・床補強・換気・防湿・確認申請の5点は要注意
- 浴槽を完全に無くすのはリスクが大きいが、LIXIL「bathtope(バストープ)」のようなたためる浴槽なら、そのリスクを負わずに済む
- これからは「毎日はシャワーとサウナ、つかりたい日だけ浴槽を広げる」という使い分けが現実的
サウナのことは正直よく知らないまま37年やってきましたが、一度きちんと体験してみると、住宅の設計についても考えが変わりました。「当たり前」だと思っていたものを疑ってみるのは、たまにやった方がいいですね。 施設名 SAUNA GREMPIA(サウナ グリンピア) 所在地 高知県高知市南川添18-30 特徴 廃工場をリニューアルしたサウナ専門店。水着着用の男女共用。100㎡以上の屋内型外気浴スペース ご利用前に 営業時間・定休日・料金・予約方法は変更されることがあります。お出かけの前に公式サイトで最新の情報をご確認ください。
※ 本記事は個人の体験に基づく感想です。設備の仕様や料金は取材時点のものです。
※ サウナの利用には体調による向き不向きがあります。持病のある方は医師にご相談ください。
※ 住宅へのサウナ設置に関する法令・申請の要否は、地域や建物の条件によって異なります。実際の計画にあたっては所轄の行政庁および施工店にご確認ください。
