とある住宅メンテナンス業者として。現場で見てきた「固定資産税」「差し押さえ」「所有者不明空き家」のリアル。
結論:空き家は「人の怠慢」ではなく、仕組みの怠慢で増えます。私は毎日のように朽ちた住宅、危険なブロック塀、越境する雑草、近隣クレームの板挟みに向き合っています。誰も住んでいないのに、誰も責任を取らない家。現場の足を止めているのは、住民でも自治体でもなく、いまのルールです。
なぜ「持ち主不明の空き家」は放置されるのか?
本来、固定資産税は「登記簿上の所有者」へ請求されます。ところが現場では、以下の「制度の穴」に何度も突き当たります。
| よくあるケース | 何が起きるか | 結果 | 
|---|---|---|
| 所有者が死亡&相続登記していない | 誰に課税・連絡すべきか不明 | 税・管理ともに宙づり | 
| 登記の住所が古く所在不明 | 通知が届かず催告も空振り | 滞納が積み上がる | 
| 相続人が多く合意形成が不可能 | 誰も責任者にならない | 結果、全員が放置 | 
現場の実感:「差し押さえ可能」でも、相手が特定できなければ手続きが進まない。危険度が高くても、費用回収の見込みがないと自治体は動きにくい。
行政が今できること/しかし限界
| 手段 | 内容 | 現場目線の実効性 | 
|---|---|---|
| 公示送達 | 掲示で「送ったことにする」 | 形式は整うが回収は進みにくい | 
| 行政代執行(危険家屋) | 強制解体・措置 | 費用請求先が不明で回収困難 | 
| 選任管理(管財人制度など) | 家庭裁判所経由で管理人選任 | 手続きハードルが高く、件数は伸びづらい | 
法整備の前進(例:相続登記義務化など)は評価します。でも、現場が動ける仕掛けになっていなければ、危険家屋は今日も風雨にさらされます。
3行まとめ(ここが問題の核心)
- 持ち主不明の空き家は、課税も管理も宙に浮く。
- 自治体は「差し押さえ可」でも相手不明で実務が止まる。
- だから、責める相手は「人」ではなくルールだ。
もし私が総理大臣だったら──現場からの即効プラン
① 「放置→損」「活用→得」へ税制を反転
- 長期放置の固定資産税は最大3倍(危険家屋・管理不全加算)。
- 貸す・売る・公的活用に出すなら半減(期間限定の特別控除)。
- ポイント:人は「罰」よりもメリットで動く。行動経済学的にこっちが早い。
② 10年滞納&所在不明は「自動的に公的管理へ移行」
差し押さえの実務ボトルネックは相手特定。そこで、段階的移行ルールを法定化します。
- 5年滞納:国・都道府県の公開台帳に登録(Web/SNSで簡易閲覧)。
- 5〜10年:相続人名乗り出れば、滞納清算+登記完了で返還。
- 10年経過:自動で公的管理へ移行(いわば空き家版の時効取得)。
虚偽申告には厳罰&損害賠償。同時に、誠実な相続人にはスムーズに戻せる導線を確保します。
③ 空き家を「移住・子育て世帯」に無償または低額貸与
- 都道府県主導で空き家ルームシェア/空き家バンクを本気運用。
- 再生不能は計画的解体→資材再利用・入札で費用回収&地元雇用。
- 「負の遺産」を次世代の生活基盤に変える。
現場の一句: 住む人がいないのに、責任だけは町に残る──そんな設計はもう終わりにしよう。
現場からの実務アドバイス(読者向けチェックリスト)
空き家を相続・発見したら、まずはこの順で動けば損を減らせます。
- 相続関係の整理:戸籍・遺産分割の進行。相続登記は早め。
- 近隣確認:越境・倒壊リスク・雨漏り・害獣痕跡の有無を点検。
- 固定費の棚卸し:税・保険・公共料金・警備(必要なら)を洗い出し。
- 方針決定:売る/貸す/自分で使う/公的活用に出す。
- 専門家連携:メンテ業者・不動産会社・司法書士・自治体窓口へ。
現場の声:よくある誤解と即レス
「誰も住んでないから、壊れても自己責任でしょ?」
⇒いいえ。第三者へ被害が出たら賠償問題になります。台風前の仮補修や立入禁止措置は最低限の義務です。
「相続放棄すればもう関係ない?」
⇒相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要。放置=放棄ではありません。管理責任や緊急措置の窓口は別途問題になります。
「自治体が勝手に解体してくれるんでしょ?」
⇒危険度や手続き次第です。費用回収の見込みがないと動きづらいのが実情。早期相談が一番の近道。
最後に(今日いちばん伝えたいこと)
本当に変えるべきは “人” じゃない。 “ルール” だ。
空き家は贅沢品と同じ。維持管理にコストがかかるのは当たり前です。管理できないなら持たない、これが原則。相続するなら管理まで。無理なら相続放棄や売却、活用に出す。
現場は今日も、倒れかけた雨樋と、飛びそうな屋根瓦の下にいます。危険を放置しないルールづくり、そして動けば得をする仕組みへ。そこに国と自治体の本気が見えれば、私たちはいくらでも動きます。
(筆者:とある住宅メンテナンス業者。現場での安全点検・仮補修・空き家管理の相談を数多く担当)
空き家の「とりあえず点検」:倒壊・雨漏り・害獣・越境を現地チェック。最低限の安全確保と報告書(写真付)までワンストップ。
- 連絡先:自治体窓口または地元の住宅メンテ業者や空き家点検サービスへ(地域名+「空き家 点検」で検索)
- 準備しておくと早いもの:住所/図面や固定資産税通知書/鍵の有無/近隣からの苦情内容
 
  
  
  
   
    
